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列車に乗った男


パトリス・ルコント2002年の作品。
素晴らしい映画でした。
ルコント作品常連のジャン・ロシュホールが安定感のある揺るぎない演技で土台をしっかり支えてます。
彼はどうしようもなく好きな俳優ですが、この作品におては「好き」というより
むしろ「愛してる」といったほうが正しいかもしれません。
彼にまかせておけば「安心」。
そういった気持ちを女に抱かせる包容力の演技。嗚呼!

ジョニー・アリディ。
列車に乗ってやってくる男を演じる俳優ですが、ワタクシ勉強不足で彼のことは知りませんでした。
が、これもまたいい男で。
一目惚れはしませんが、比類無き味の持ち主故、見終わった後に必ず恋に落ちてしまいます。
なんでも彼はフランスでは有名なミュージシャンだとか。

変化のない日常を送る老教授。
犯罪を繰り返しながら流浪の生活をする無骨な男。

ひょんなことからこの二人が寝食を共にすることに。
変化のない生活に登場したゲストに喜び、無邪気に男へ興味を示す教授と、それをうとましく思う男。
物語の進行とともに次第に教授の穏やかに見える生活に隠された情熱と哀しみが端々に演出されてゆきます。

15年前に亡くなった母親との間に残された精神的な問題。
結婚を機に仲違いしてしまった姉との確執。
誰にも相談できない手術への不安。
恋する女性に理性で振る舞う己への嫌悪。

どれもこれもはっきりと語られることはありませんが、観客に推測を促すだけのヒントときっかけを与えています。

流れ者の男にしても、寡黙さで教授を拒絶しながらも彼の背景にある暖かい心が次第に解けてゆく過程が
実に繊細に丁寧に描かれています。

パン屋でのエピソード。
ウイスキーの呑み方を教えるところ。
ポンヌフの詩を暗唱できる意外さ。
室内履きに戸惑い、女性に尻込みする教授を後押しする場面。

言葉は少ないけれど、仕草や目つき、小道具の扱いでそれらを見事に表現します。

悲しいけれど、展望の望める最後の場面は観客を唸らせ黙らせます。

それぞれの人生の中で何が一番大切なのか。
人間がひとりになったとき、何が一番嬉しいものなのか。
そういうことを優秀な二人の役者達が静かにじっくり魂へ語りかけてくるようです。

列車に乗った男


Posted: 火 - 6月 14, 2005 at 01:03 午後        


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