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De battre, mon coeur s'est arrete→The beat that my heart skipped →真夜中のピアニスト


今年のフランス映画祭横浜で上映されたDe battre, mon coeur s'est arrete。
監督は「リード・マイ・リップス」のジャック・オーディアール。
ロマン・デュリス主演作品の中でロマン最高の演技と最高の作品。
本年度ベルリン映画祭では「最優秀音楽賞」受賞。
ピアニストを目指すロマン扮するトムの影武者、ゴースト・ピアニストは、
なんとロマン・デュリスの実姉キャロライン・デュリス、という豪華なおまけ付きの最高傑作。

なのになぜか邦題が「真夜中のピアニスト」(ええーーーっ!)

これは1978年の映画「マッド・フィンガーズ」(ハーベイ・カイテル主演ジェームス・トバック監督)のリメイクです。
こちらはそのまま英語タイトルの「マッド・フィンガーズ」が使用され公開となっています。

英語タイトルと違って、原題のままでは意味が理解されにくいフランス語の邦題というのは大変難しいものだと思います。
そんなこと端で見てたってわかります。
しかし、それでもやはりここは一言申し上げずにはいられない「真夜中のピアニスト」です。

父親の営む不動産業に伴う取り立てや立ち退きなのど汚れ仕事を請け負う28歳のトム。
亡き母親がピアニストだったことから街角で行われていたコンサート会場のロビーに知り合いのプロデューサーを見かけ、
懐かしさと意外性からトムは彼に声をかける。

笑顔で話が弾む2人の共通点はピアニストであった母親と、ピアニストを目指していた幼き日のトムであった。
わずかな時間のやりとりで、トムは再びピアノを弾いてみる気になるのだが、もちろん固まった指先がうまく動くはずもなく、焦燥心ばかりがつのってゆく。

父親から依頼されるやくざまがいの酷い仕事と、それらにからむダークな人間関係。募る思いはあっても上手くいかない恋愛関係。父親の再婚話しからぎくしゃくしてしまう親子のバランス。

そんな中でいらいらしながらも、ピアノに癒される自分にきづき、それを必死で守ろうとするトム。
ピアノに時間をとられ、今まで通りに事が運ばなくなることでトムに不信感を抱く仕事上のボスである父親と仕事仲間達。

かれらとの生活も守りたく、父親との関係も大事にしたい、しかしピアノはそれ以上の存在かもしれず、
そういういくつかの葛藤の中にあってもトムはどれをも手放さずに必死にもがき苦しみます。

自分を癒してくれたはずのピアノがもたらすリスクはどれも大きく、自暴自棄になりかけるも、すでにトムはピアノを最優先にしたい自分に気がつき、ある事件をきっかけに彼はピアノと共に生きて行く人生を選択するのですが。

いくつもの状況が折り重なってゆくときの心の動きを、ロマン・デュリスは見事に表現しています。
トムの心にときどき芽生える小さな喜び、そして忘れ去ろうとしていた無垢な自分、やり場のない悲しみと切なさが、痛いほど伝わってきます。
いつしか観客としてではなく、自分自身がトムになってしまったかのようなのめり込み方で映画に没頭してしまう素晴らしい演技力。

作品全体が暗いトーンで重たくずしんずしんと進む中、トムと彼女のベッドシーンはとても初々しく美しくやさしく描かれているため、トムも観客であるワタクシも暗く沈みっぱなしになることはありません。

ジャック・オーディアール監督、前作の「リードマイリップス」でもそうでしたが、作品事態の重たさとは対照的に女性の描き方が繊細でやわらかい。
物語のめりはり、という意味では大成功している描き方であると思います。

重たいテーマのわりにテンポはよく、観客を飽きさせず、最初から最後までぐいぐいひっぱり続けます。
まだ作品数の少ない監督ですが、今後も絶対に目の離せない天才映画人であることは間違いないようです。
ロマン・デュリスといえば「セドリック・クラピッシュ監督」とのコンビがあまりにも有名ですが、今後もぜひジャック・オーディアール監督と今回のような素晴らしい作品を作って頂きたいと思います。

この秀逸作品をひとりでも多くの方に見て頂きたい。
そう願うのはなにも配給会社の人間だけではありません。
ですからどうぞ「真夜中のピアニスト」はどうか勘弁していただきたいと、
この場を借りて宜しくお願いする次第なのであります。

Posted: 火 - 6月 28, 2005 at 08:40 午後        


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