下駄三昧
あまりにも多忙すぎて顔つきが険しくなってきました。
目方もいくらか下降気味。やつれた顔に落ちくぼんだ目玉がぎょろり。
あと一歩で般若の面。
これはいかん! 楽しいことをしなくては!
恵比寿三越からやってきた一枚のダイレクトメール。裏を返すと見慣れた文字で「はきもの」の文字とイラスト!四国に店を構える履物屋さん「黒田商店」は私のお気に入りのお店。毎年ゴールデンウィークの頃に恵比寿三越に出張販売のお店を開いてくれます。ここの下駄を履いたら他店のものが馴染まなくなるほど、くせになる履き心地。履き物や3代目のご主人と、東京は上野の江戸っ子奥様のおふたりが、その人の足に合う下駄を、文字通り誂えて下さいます。奥様がひとつひとつ手作りする鼻緒の華やかさと履きやすさ、ご主人が丁寧に調整してくれる鼻緒の高さ。履き物やさんですから、その知識と品揃えはじっくり聞いてて飽きることがありません。その黒田商店さんからのお誘いです。この険しい顔つきさっそく溶かしてもらいましょう。子供達の下駄も毎年誂えていただいているので、学校帰りの彼らを捕まえていざ恵比寿へ。今年もステキなものをたくさん揃えていつもの道具箱を前に腰を据える黒田さん。奥様もいつもどおりの作務衣に白黒格子の半襟をあわせてとってもチャーミング。このおふたりの姿を拝見するだけで、険しい心が解けていくよう。ああ、嬉しい。「黒田さん、こんにちは!」私が言うより先に子供達は黒田さんに駆け寄ります。彼らは作業をする黒田さんの手元を眺めたり、その不思議な形をした道具を触らせてもらうのが嬉しくてたまりません。職人の道具に触っちゃいかん! 明治生まれに祖父に育てられた私はそういう彼らを叱りとばしますが、黒田さんはちっとも気になさりません。平気で金槌とクギを渡して「ここに打ち込んでごらん」なんて遊んで下さいます。子供達も下駄に慣れているので、ずいぶん好みも決まってきています。兄弟とはいえ、えらぶ鼻緒に個性が伺えるようになった最近。今日はどれを選ぶかしら? 奥様に誘われて鼻緒のいっぱいはいった駕籠をのぞいて「これ!」
長男は朱色のビロードと雲と波がモチーフになったバティック織りの2本。次男は2本ともリバティの花模様。ひとつはクリーム地に紫の小花模様。もうひとつはスイカズラと木の実の模様。これらの個性的な鼻緒はすべて黒田夫人が世界中を歩いて探し求めた布でこしらえた一点モノばかり。まさかリバティハウスの布が鼻緒になるなんて思いつきません。ここが普通の履物屋さんの一線を画す黒田庄店の底力。とにかく「布」への愛情が強くていらっしゃるから、こちらも襟を正して大事に履く気持ちにならざるえません。今日私は黄八丈に合うカジュアルな草履と、これからの季節に合う普段履きの下駄を選びました。鼻緒は茶色地にすねずの小花が飛ぶフェミニンなもの、下駄には浅黄色の麻地を合わせて頂きました。ここにきたら自分のワードローブを説明するだけで奥様がコーディネートしてくれるので大変ラクチン。だって黒田夫人の合わせてくれた履き物に間違いがないから。ここではわがままいってだらんとしてても、はいどうぞ。と、確かなモノが受け取れます。もちろん、ジーンズに合うもの、といったアバウトな注文でもだいじょうぶ。ほんとにジーンズに合う履き物が手渡されます。なんのかんので黒田庄店に顔を出すと、いつも2時間は腰を据えておしゃべりしたり、ぼんやりしてしまう私。今日もわがままいってげらげら笑ってすっかり剣呑さが溶解です。「お誂えモノ」のちょっとした贅沢を小脇に抱えて、息子達とニコニコ笑顔で帰宅したところです。
Posted: 月 - 4月 25, 2005 at 06:55 午後