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我が人生の縮図かな


どうしても地下鉄で出かけなくてはいけない用事があって、一年ぶりに地下鉄に乗りました。
どこへ出かけるにも車を運転する私は、公共の乗り物をほとんど利用しません。
タクシーは酔っぱらったときに利用しますが、バスや電車、地下鉄は皆無といっていい利用頻度。
最近では地下鉄路線もどんどん増えて、ますます便利になっているらしいのに、
相変わらず私は排気ガスをまき散らしながら効率悪くも自家用車オンリーの生活です。

そんな私が昨年の夏に地下鉄に乗ったのは、息子達の「地下鉄スタンプラリー」に付き合ったから。
その時も久々の地下鉄にすっかりわけがわからなくなり、小学生の子供達のあとをついて歩くのが精一杯。
そして本日、私がひとり地下鉄に挑むのは、車が車検で無いためにタクシーで行くつもりになっていたら、
アシスタントの女の子が「そこのビルは○○駅真上のビルですから地下鉄の方が早いですよ」といったため。
なんでも表参道から4つめのその駅の真上のビルに私の用事が待っているらしい。

えーめんどくさいよー。
と抗議したい気持ちを抑え涼しい顔して「それもそうね」と答えたのは
「経費をもう少し抑えましょう」と先日税理士のセンセーにいたれたばっかりだったからだ。

100%気は進まなかったけど、ええーい、地下鉄のひとつやふたつ、のってやろうじゃないの! と
果敢にも挑戦し、朝9時、表参道駅へと向かったのであります。

こういうことを書くと「なんて世間知らずの馬鹿者なのだ」と呆れられてしまうけれど、朝の9時、というのが
ラッシュアワーだなんて私はこれっぽっちも知らなかったのです。

夫も私も私の兄も夫の妹も彼の実家も私の実家も自営業。
身内にラッシュアワーを経験しているサラリーマンやOLという職種の人間がひとりもいない。
つまり、働くために電車に乗って他の場所へ移動する、という概念が存在しない場所で私は40歳ちかく生きているのだ。
だから朝の地下鉄で何が行われているのか、朝9時の表参道がどんなになっているのか、なんて
まったく知らなかったし、そんなこと知らなくたって40年しっかり生きてきて、
ちゃんと納税義務を果たす大人になってしまっていたのである。

そして私はいつもの出勤前と同じように、必要な荷物と必要な身だしなみを整えて朝9時に表参道の駅へ向かう。
午前中の青山は人も車も少なく大変気持ちの良い環境。
ああ、日差しが夏になってきた、だとか、お隣りのオシロイバナが咲いている。
のんきに歩いていると、なぜか一方通行で人通りが増えている。
私とは反対方向に歩く人がどんどん増える。増える、増える!

気がつけばその勢いは怖いくらいの物で、私とは反対の方向で、いったい何が行われるのかと気が気ではない。
後ろを振り返ってみるも、反対方向の謎は解けぬまま。
きらびやかなお嬢様たちの集団が、ぞろぞろ、という表現では追いつかぬほどの大集団となって一定方向へ歩いているのだ。
まるで笛吹男が引き連れていってしまった子供達のように。
ああ、みなさん、いったいどちらへ行かれるの?!
内心の私はかなり不安な面持ちとなる。

しかも、それは駅につかづくにつれ、どんどんふくらみ、ついには表参道の駅を降りるUFJの階段などは、
下りを歩くのはとうとう私ひとりになってしまったではないか! 
上りはぎゅーぎゅー詰めの人混みなのに!

こうなるとどこでなにが行われるのか、という好奇心よりも、もしや私は間違っているんじゃ?
という情けない気分になってくるし、だいじょうぶ、私は間違っていない。と、きっぱり言い切れるほど
地下鉄事情に明るくない私なのだ。

ええー大江戸線乗ったことないんですかー!
なんて驚かれたって、ここから大江戸線の都庁前の駅までは車の道順、理路整然と説明できるわよ!
と、よくわからない威張り方をして相手を煙にまくような、そういうずるくいい加減な生き方をしている私なのだ。
地下鉄の路線はお手上げだけど、地上の道順は任せてちょーだい! の大義名分のもとに
地下鉄を閉め出してる人生なのだ。

実際に「タクシーの運転手だったんですか?」と驚かれるほど裏道に詳しいことで、私はいつでもすっかり鼻高々の得意顔。
それがひとつ道を逸れて地下へ潜ればこのていたらく。
もう情けないやら心細いやら。
アシスタントの敦子ちゃんを恨んだところで「見当違いですよ、もう!」とバーチャル敦子ちゃんが怒鳴ってる。

階段のあとは改札口へ向かう地下道なのだけど、ここなどはすでに駅からはき出される人たちの大波が
つぎつぎに起こり、まさに私は荒波にもてあそばれる小さな笹舟状態。

で、ここでパチン! と頭の中で指が鳴り、途端に神の啓示が私に降りて、すべてまるく合点がいった。

表参道、という場所は、店舗と企業ひしめく商業地域故、朝はそういった勤務先へ向かうかたがたが
怒濤のようにやってくるわけです。
しかもアパレル関係がひしめき合う青山では、若く、おしゃれでステキなお嬢さん達が大挙して労働なさっているのです。

ラッシュアワー、といえば、丸の内のスーツ姿のおじさま達を想像していたワタクシは、
このような華やかなラッシュアワーが世の中に存在していることすら知りませんでした。

きらきら光るメイクやアクセをきっちり決めて、ミュールやスカーフに合わせてカールした髪先が上下して、
そこはかとない女の香りが風に混じり、美しい女達の集団をふんわり包んで移動してゆくのです。

お嬢さん達のラッシュアワー。
これはこの辺だけの特異現象だと思われますが、これは端から見ていれば圧巻でしょうけれど、
それとは知らずに流れに逆らわなくてはならない状況に置かれると、それはそれは恐ろしいものがあります。

中学校からずっと女子校でやってきた私だけど、いまひとつ学友達に馴染めない様な気がして、
10年間ずっと流れに逆らってやってきたような学生時代。

社会人になってからも、OLや家に収まることをせず、ひとり好き勝手に生きてきた私の
人生を象徴しているかのようなこの出来事。
40歳になってもまだ、女の集団に馴染めず逆行しながら皆が降りてしまった後の電車に乗り込むあたり、
なんとも象徴的だ、などとつい苦笑いがこみ上げて仕方の無かった地下鉄体験でありました。





Posted: 水 - 7月 13, 2005 at 08:47 午前        


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